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マンケルの最新犯罪小説
ヴァランダーの記憶喪失に対する不安
17. Aug 2009 http://www.netzeitung.de/kultur/1434420.html
ドイツのファンたちは心をわくわくさせながら
あの警部が登場する最後の小説を待っている。
スウェーデンでは既に出版された。
記憶の中の恐ろしい「いくつもの穴」と戦う、
そんなヴァランダーのことを記述している。
クルト・ヴァランダー警部はアルツハイマーの初期段階に
罹っているのだろうか?
これがヘニング・マンケルの最新小説の中で提出されている最も暗鬱で、
全てに影を落とす問いである。
その中ではイースタッドの、刑事がぶさくさと不平を漏らす。
スウェーデンの読者たちはこの問いに対する答えを今や555ページの
本の最後のページで読むことができる。
ドイツのファンたちは(ドイツ語翻訳版が出る予定の)2010年の春まで
我慢していなければならない。
10年間執筆を休んだ後、ヴァランダー犯罪小説の10冊目は書かない
ということだったがスウェーデンの最も成功している犯罪作家は
Der unruhige Mann(スウェーデン語タイトルは («Den orolige mannen»,
日本語に訳せば「不穏(不安?)な男」かな?)を携えて自分に対する約束を破ってしまった。
冷戦時代から引きずってきている克服し難きスウェーデンの色々な問題や
60歳以上の人たちの多くが記憶の穴と戦っているということで、
自分としては筆を取らざるを得なかったとマンケルは同書のプレゼンテーションで語った。
The Troubled Man: A Kurt Wallander Mystery英語版
Der Feind im Schattenドイツ語版
ヴァランダー自身はかなり孤独を感じているし、
仕事の上ではもうそんなに腰が座っているわけでもなく、
娘のリンダによっておじいちゃんなってしまうのだが、
行方不明となったルイーズの義理の両親を捜査しているうちに、
不安にさせられる
「いくつもの穴(自分は一体何を欲しているのか?何が起こったのか?)」を
強烈に体験する。
貴族出身の義理の父親はかつて海兵隊の将校であった。
80年代まで謎の外国のUボートの追跡でスウェーデン海岸線での捜索に参加した。
その妻が足元から地の穴に飲み込まれてしまったかのように忽然と消えてしまった後、
二人の内のどちらかがもしかしてモスクワの当該スパイとしてUボート追跡に
係わっていたのではという疑惑が湧く。
ヴァランダーの老齢に対する勝算のない戦い
この謎が解明されるまで緊張の限界状態が続くのだが、
この緊張に何か特別な独創性があるというわけでもない。
毎回の犯罪小説の中ではいつもそうであるように、
マンケルはゆっくりそしてかいがいしく歴史を紐解いてゆく。
あまりにもかいがいしく、しかしオリジナリティには欠ける、空回りが多過ぎる、
でもそれはスウェーデンでは十分に取り扱われるテーマではある
と言っても間違いではなかろう。
61歳のマンケルは主人公ヴァランダーの
勝算の見込みがない老齢に対する戦いについて手間と愛を注ぎながらの描写に
時間を掛けた。同感できる読者にとっては慰めとなるものだ。
警部はイースタッドの酒場で一人さびしく晩酌を取っていたのだが、
その際、自分の仕事道具である(弾丸が入った)ピストルを忘れてしまった、
何も思い出せない。それでも後で事件解決のための素晴らしいアイディアが浮かぶ。
現地イースタッドにはツーリストが押し寄せて
スウェーデンの南先端にあるイースタッドの現地では今、
ヴァランダーファンたちが小説の舞台を探し求めてまたも夏の侵入が起こっている。
今回は英国からのファンたちが来ている。
というのもケネス・ブラナフが英国テレビでの3部作の撮影で
ヴァランダーの4代目として異彩を放ったからだ。
ヴァランダー警部は目下、犯罪小説ファンクラブのために最高調に生きている。
アルツハイマーに罹っていようと罹っていまいとも。
でもマンケルは終止符を打つのである。
555ページ目で読んで確かめることができるように。
「クルト・ヴァランダーの物語はこれで以って引き返すことのない終焉を迎えた」と。
まだ残っているこれからの10年間かそれ以上は自分ヴァランダーのみに属する、
そして自分の娘のリンダ、そして孫のクララに属する、
その他の者には属さないのだ、と。
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